ベストカーのトラックマガジン。
フルロード(fullload)講談社から取材を受けました。
3月号掲載

ベストカーのトラックマガジン。フルロード(fullload)講談社から取材を受けました。3月号掲載

「2024年問題」 遂に現実に
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ベストカーのトラックマガジン。フルロード(fullload)好文社から取材を受けました。3月号掲載

オールステンレスのオリジナルな
家畜運搬車に特化
-3年前に架装メーカーを始めた柳沼ボデー工場の場合

久しぶりにシリーズ「成熟期を迎えた架装メーカー それぞれの方途」をお届けしよう。 成熟期とは「製品が市場に普及し、市場の成長が鈍る段階」(MBA経営辞書より)を指すらしいが、そうした中で何をもって独自性を発揮すべきか、多くの架装メーカーの模索が続いている。成熟期を象徴するのがメーカー完成車なら、その対極にある大量生産に不向きな車両はどうか? つまりは民需の「つくりボディ」だが、今や「ビルダーの一台」でもご案内の通り、つくりボディの筆頭である平ボディも立派な市場が確立されているのだ。そこで実績のない最後発の架装メーカーが選んだのは、手掛けるメーカーがごく少なく、つくり込みが厄介な車両=家畜運搬車だった。生い立ちもユニークなら発想もとびきりユニークな有限会社柳沼ボデー工場をご紹介しよう。

業務用車両の修理に長年の実績柳沼ボデー工場の人となり

栃木県宇都宮市台新田町で迎えてくれたのは、同社の三代目となる柳沼文秀代表取締役である。創業は1937年で、祖父の柳沼政雄氏が戦中から業務用車両の修理に特化したサービスを展開し、現在に至っている。
実は、柳沼ボデーが今回の主題である家畜運搬車を手掛けたのは、なんと今からわずか3年前のこと。 売り上げていえば今でも大型・特殊車両の事故修理が9割を占めており、架装メーカーとしての売り上げは1割にも満たないのだ。では、なぜ架装メーカーに軸足を置こうとしているのか?
「私どもの仕事は業務用車両の事故車の修理がメインになるですが、こればかりはいつ入庫してくるか先が読めない「待ち」の仕事なんですね。微減というのかな、少しずつ事故車の修理の仕事も減ってきていますし、そろそろ次の事業展開も考えなければならない。
そんなとき懇意にしている畜産関係のお客さんから「家畜運搬車が欲しいのだけど、他のメーカーさんに頼もうとしたら3~4年かかると言われてしまった。そんなに待てないので、柳沼ボデーでなんとかつくってくれない?」という話がありました。初めてのことだし、材料代をはじめコストがどれだけかかるかわからないので、最初は断っていたのですが、非常に熱心だし、お世話になっているお客さんなので、ではやってみようか・・・・・・。 牛を運ぶ中型車でしたが、初めてのことなので完成するまで1年かかりました。 それが2021年のことでした。
初めてのことなので、このクルマの床フロアは他の架装メーカーさんから購入しました。しかし、他社さんにお願いすると納期が読めないし、完全オリジナルなものができない。1号車は床や根太などは木製でしたが、2台目以降は全部自社で製造しよう、耐久性を考えて基本的にステンレスとアルミでつくろうと考えました」。

手探りの独学で家畜運搬車を製造

もちろん、 図面があるわけでもなし、同業者に教えを乞うわけにもいかないので、いわば独学で家畜運搬車を仕立てることになるのだが、聞けば柳沼社長は、もともと根っからのメカ好きなんだとか。 機械工学系の大学を卒業後、地元のいすゞディーラーに就職し、メカニックとして働くなど、機械ものに強く、2011年に37歳で柳沼ボデーを継いでからは、3D-CADを独学でマスターし、自ら車両の設計を行なっているという。
「当初はまったくの手探りでした。たとえば、リアは牛を荷台に乗せるためのワイヤー式のゲートになって

ベストカーのトラックマガジン。フルロード(fullload)好文社から取材を受けました。3月号掲載

いるのですが、 どのくらいの角度のスロープなら牛がうまく上ってくれるのか、わからないでしょう。畜産市場に行ってお客さんのクルマの角度を測らせてもらったり、いろいろ話を聞いたりして、ひとつずつ詰めていきました。
また、運ぶのが家畜なので糞尿対策が大事です。当初はクッション性がよいというイメージもあって木製の床フロアにしたのですが、頻繁に清掃・消毒するクルマなので長く使うと腐食してしまう。そこで縦根太・横根太をアルミにし、床はステンレスの縞板にしました。通常この床におがくずを敷いて運びます。屋根は、軽量化につながる幌が一般的ですが、私どもでは冷凍車などに使用する断熱パネルにしています。これは暑さ寒さから牛を守るということ、さらに雹などで屋根に穴が空かないことなどを想定しています。ステンレスには塗装を行ないません。防疫や経年劣化で塗装がはがれることがあり、牛や豚が口にすることを防ぎたい。また、磨きステンレスにより掃除が容易と考えているからです。もちろん、磨きステンレス材をはじめ縞板など、使用する部材は値段が高いし、加工もひと手間かかりますが、家畜運搬車は5年10年で代替えするものではないでしょう。それこそ車歴まで・・・・・・ボデーはそれ以上ずっと使えたほうがお客さんのメリットになると思います。 商売を考えたら、 5年10年で買い替えてくれたほうがありがたいのですが・・・…(笑)」

架装メーカーに挑む その素地は?

ところで、最後発のメーカーがわずか3年で家畜運搬車をつくり上げたことに違和感を抱く人もいると思う。しかし、そこには「あ~、そういうことか」という納得の理由があったのだ。前述したように柳沼ボデーは、長年にわたって業務用車両の修理を行なってきたわけだが、事故車の修理がメインだから、カーゴ系のトラックからバス、特装車、特種車に至るまで、さまざまな業務用小型・中型・大型貨物自動車「事故車損害算定参考資料」という分厚い本がある。 日野自動車編、三菱ふそう編、いすゞ自動車、UDトラックス編があり、各車種の詳細な部位の構造と修理方法などが記されており、大型整備には非常に役立つものだと思うが、この編集委員長を務めているのが柳沼社長なのだ。
つまり、トラックのシャシーから架装に至るまでよく熟知しており、決して素人が手掛けた「にわかづくり」の架装ではないのである。 修理工場があるから機械も揃っているし、加工や物をつくることはお手のもの。おまけに壊れたクルマを長年見てきたから、どんなクルマが耐久や信頼性に優れているかわかっているのだ。
「ボディ修理の素地があるので、そこがスタートでした。 あの架装メーカーのボディはこういうつくりになっているから、事故でダメージを受けたとき、どういった損傷の波及をするかまでわかっているのです。 だから、こういうつくりにしたほうがいいという見方ができるのです」。

架装メーカーとして
オンリーワンの生き方を目指す

柳沼社長は、 仕事柄たくさんの架メーカーとも付き合いがある。 北関東といえば、以前はいわゆる「ボデー屋」と呼ばれるローカルな架装メーカーがたくさんあったが、 大手のウイングボディに駆逐され消えてしまったメーカーも多い。 ところが生き残ったメーカーは、今やつくりの平ボディが有卦に入り、活況を呈しているような状況だ。 柳沼ボデーはなぜこの分野に進出しなかったのか?
「やはり、どうせやるならあまり他社が手掛けていないところで勝負をしたいと思いました。 後発なので平ボディやウイングはないなと・・・・・・。それじゃダンプはというと、自社で足回りからシリンダまでつくれない、 どこからか購入しなければならない。私としてはすべてオリジナルの自社製品でやりたいので家畜運搬車が適当だと判断したわけです。
柳沼ボデーがこれまでにつくった家畜運搬車の数は9台。1台の大型を除いて、すべて中型ベースの牛の運搬用の車両だという。 大型は1段フロアの豚の運搬用だそうだ。
「現在の生産のベースは月に1台ほどですが、これを月産2台程度にはしたいですね。日本自動車車体工会の資料によると、家畜運搬車の需要は年に50台程度とのことなので、ゆくゆくは半分くらいのシェアを獲得したいと思っています、また、牛や豚のみならず、馬を運搬する馬匹車もつくってみたいです。さらにステンレス加工の技術があるので、それを活かせる分野があれば挑戦していきたいですね。私はこの2月でちょうど50歳になるのですが、今はもうちょっと若かったら、もっとやりたいことがあるのにな、なんて思っています(笑)」。
いえいえ、まだまだチャレンジ精神は旺盛。

成熟した架装メーカーの殻を破るのは、こんな人かもしれないと思った楽しい取材だった。

別冊ベストカー
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