(有) 柳沼ボデー工場は、宇都宮駅から車で約15分、矢板家畜市場から車で約1時間のところにある、トラック・バ
ス・特殊車両の事故修理をメイン業務とする会社だ。そんな修理のプロがこのたび初めて家畜運搬車を自社製造し、
今年1月にその第1号となる車両が完成した。この車両は、柳沼ボデーに家畜運搬車の製造を持ちかけた瓦井畜産のも
のであり、綿密な打ち合わせを重ねて完成した、まさに完全オーダーメイドの1台だ。口絵では
機能面だけでなく見栄えにもこだわった車両を写真で紹介する。(写真は一部柳沼ボデー提供)

柳沼ボデーでは現在4t車を基本に、4~8tまでの増t車で製作可能。家畜運搬車(4t)の基本価格は750万円。
また、車両の製作だけでなく、家畜運搬車の修理やカスタムも可能。「床の腐食部分を綺麗にしたい」、「車体にフック
を取り付けたい」などなど、車両に関することであればー度ご相談されてみてはいかがだろうか。(本文は68頁より)

1.荷台中央にはウィンチフックを設置。荷台内部もウロコステンレスで仕上げている。2.荷台前方に荷物入れ。3. リヤゲートはフラットでウロコステンレスが映える。4.ステップにマットを使用。5.仕切り板は荷台中央に
取り付け可能。6.水抜き。床板は腐食防止の加工をしたアルミを使用。外側へ糞尿が垂れるのを防ぐために床面より土台を高くしている。7. 大型の道具箱はサイドマーカーを折り畳んで開閉する。スコップなどの大型の荷物
もすっぽり。8.後方右側の道具箱。丸パイプ3段のサイドバンパーは道具箱の部分のみ可動式になっている。9.ステンレスフェンダー。10. 鏡面仕上げのステンレス骨格。奥に見えるウロコステンレスの天井がかっこいい。
11. 縦根太も見栄え良くウロコステンレスで覆っている。写真ではわかりづらいが、下回りのフレームは全て赤色のラメで塗装している。12.下から床を見上げたところ。床面もウロコステンレスを張っており、消毒液や泥水な
どがかかっても手入れがしやすく、腐食もしづらい。

修理のプロが農家とともに作り上げる完全オーダーメイドの家畜運搬車
栃木県宇都宮市 やぎぬま (有)柳沼ボデー工場「修理のプロが家畜運搬車を作る
(有)柳沼ボデー工場(以下、柳沼ボデー)は、柳沼政雄氏が昭和12年に創業した会社で、現在は孫であ
る柳沼文秀氏が3代目代表取締役としてその後を継いでいる。柳沼ボデーは、政雄氏が軍従車両の修理を行っ
ていたこと、昔は車の整備士も白衣を着用していた経緯から、事故車両の修理業務をメインに、トラック
バス・特殊車両の「専門医」として現在に至るまで様々な車両を直し続けてきた。そんな修理のプロである柳
沼ボデーが、今年1月に初めて家畜運搬車を製造した。
写真1がその製造第1号の家畜運搬車だ。詳しくはぜひ口絵のカラー写真を参照いただきたい。現在は第2
号の製造に取り掛かっている真っ最中だ。
お客さんの声から生まれた家畜運搬車ここからは、いわゆる修理屋だった柳沼ボデーがな
ぜ家畜運搬車を製造するに至ったか、その経緯について紹介する。

3代目の文秀氏が後を継いだのは平成23年のことで、
その頃は事故車両が減少していたことに加え、東日本大震災の影響で電気も十分に供給されず
仕事すらままならない状況だったという。先に説明したように柳沼ボデーは事故車両の修理がメインの会社
だ。文秀氏は「このままでは経営も立ち行かなくなるのではという危機感がありました。何かしなくてはと
考え、今まで培ってきた技術を結集し、ウィング車の製造に乗り出しました」と当時を語った。柳沼ボデー
が初めて自社製造に取り組んだのがウィング車という車両で、令和元年に完成したその車両は軽量化に特化
し積載量をアップさせているのが特徴だ(写真2)。
「しかし、全く売れませんでした(笑)」と文秀氏は明るく語った。作った車体には自信があったが、車の売
り方が全くわからない状態で、営業をしてもなかなか販売に結びつかなかったという。また、ウィング車は
競合他社も多く、後発で新規参入することの厳しさも痛感したとのこと。そんな中、完成したウィング車を
見たお客さんから「この車が作れるんだったら家畜運搬車も作れるんじゃない?」と言われたそうだ。家畜
運搬車製造会社は全国でも限られており、有名な会社では納期が1年先という状況とのことで、ぜひ作って
ほしいと頼まれたそうだ。このお客さんというのが、栃木県内で約50頭規模の肥育経営を行う瓦井畜産の瓦
井浩氏だった。これがきっかけで、今度は初の家畜運搬車の製造に取り掛かり、完成したのが冒頭の車両だ。

瓦井氏と何度も打ち合わせを重ね、こだわりの車両ができあがった。
初めての家畜運搬車の製造何度も言うが、柳沼ボデーは元々修理をメインに
行ってきた会社である。家畜運搬車の製造はもちろん初めてで、まずは家畜運搬車の構造を知るところから
スタートした。「うちは修理を長年やってきていますから、形があれば作れます。ゼロから作るのは難しい
ですが、元の車両を見れば構造はわかりますし、様々な車両を修理してきたことから、強度の出し方、壊れ
にくい構造などは大得意です」と胸を張る。では、実際にどうやって家畜運搬車の構造を学んだかという
と、自ら子牛市場などに足を運んで瓦井氏とともに様々な車両を見て回ったそうだ。そうすることで、金
属加工の仕方やマットの素材など様々な提案ができるようになった。また、車両の他にも、積み込まれる牛
の様子、農家さんの作業の様子、どんな道具を持っているかなどを観察し、「牛がステップを駆け上がる様
子や、農家さんの動きを見ながら、例えばスイッチひとつでもどこに設置するのか、リモコンの方がいいの
か、など色々考えました」と話す文秀氏からは、車を使う農家さんを一番に考え、より良いものを作ろうと
する姿勢が窺えた。
当初は、標準の車体を作り、そこから農家ごとにカスタマイズしていく方法を考えていたそうだが、農家
ごとのこだわり部分がそれぞれ全く異なっていたため、お客さんごとに一からオリジナルの車両を作り上
げていくスタイルに変更したという。「家を作るのと同じように、お客さんには様々なこだわりがあります。
それにできるだけ応えたいですし、難しい場合でも『それは構造上厳しいです。でも、このやり方ならできま
す』と提案して、納得のいくものを作っていきたいですね」と話すように、農家さんとの打ち合わせをかな
り重要視している様子だった。
20年以上使える車を目指す柳沼ボデーでは「家畜運搬車は一生に何台も作るも
のではない。せっかく作るなら良いものを」という思いから、素材から加工に至るまでできるだけ長持ちす
るようにかなり工夫している。金属部分は鉄でしか部品がないものを除き、そのほとんどを腐食しづらいア
ルミとステンレスを用い、床材には竹材を使用している。竹材は従来使われていたアピトン材という木材よ
りも腐食しづらく、しなるため衝撃に強いというメリットがある。変色するというデメリットもあるが、
竹材の上からアルミを敷くため、ほぼ目に付くことはないとのことだった。さらに、糞尿による腐食を抑え
るために、床材のアルミにもう一段階加工したとのことで「今回の加工は床の腐食防止を狙ったものですが、
まだ実験段階です。効果については経過を見てというところですね」と試行錯誤を重ねている様子で、より
良いモノ作りに意欲的に取り組んでいた。また、家畜運搬車は頻繁に消毒があることも考慮し、第1号車に
は瓦井氏の希望もあって、床材に下からステンレスを貼っている。つまり、床は上から、アルミ、竹材、ス
テンレスの3層構造になっている。また、今回ステップ部分にはゴム製のマットを敷いており、このマット
も数種類の素材を外に放置して劣化具合まで観察するというこだわりぶりだ。このように徹底的に腐食の原
因となりうる部分をなくし、腐らない・壊れない車両を目指した。文秀氏は「今回作った車両は、20年はも
つと思います。まだ作ったばかりで20年経たないと断言はできませんが、腐食する部分は極限まで減らして
いますから」と自信を覗かせた。また、「1度作ればかなりもちますから、次に作るのはお子さんの代かと
思います。ステンレスは鉄と比べると最初は高くつきますが、長期的なコストを考えると良い素材だと思い
ます」と続けた。
また、夏場の輸送は牛への負担がかなり大きくなるが、今回制作した車両には暑熱対策として屋根に断熱
材を入れている。冷凍車で使われているものと同じものを使用しており、厚さは5cmほど。断熱材を厚く
するほど断熱効果は高まるが、その分車体上部が重くなり安定感がなくなるため、今回は5cmのものを採用した。
さらに牛の出荷の際には、ロープ、ブラシ、タオル、バケツなどの細々した道具や、スコップ、水桶などの
大型の荷物があることに目を向け、道具箱を荷台の上部とサイドに2箇所の合計3つ設置した。そのうちひ
とつはスコップなども十分に収納できる大きさで、細かい部分も配慮されている。
見栄えにもこだわり
依頼者である瓦井氏とともに作り上げた第1号車は、製造に取り掛かってから約3ヵ月で完成した。瓦
井氏は、当初から作りたい車両のイメージがあり子牛市場に停めてある様々な車両を見ながら、この車輛のこれが欲しい、この部分はこの車輛のように作ってほしいなど、各車両の「良いとこどり」のようなかたちで注文を受けたそうだ。

そこから柵の幅、パイプの太さ、フックの高さなどの細部も全て打ち合わせを重
ねて作り上げ、完成した車両を見た瓦井氏からは「イメージ通りの仕上がり」との言葉をもらったそうだ。
また、瓦井氏の一番の要望は「車体をビカビカにしてほしい」というものだった。そのため、機能面だけ
でなく見栄えにも特化したこだわりの1台が完成した。外観はウロコステンレスと鏡面ステンレスで仕上
げたほか、荷台内部にもウロコステンレスを使用し、さらに車体下部の縦根太と呼ばれる部分や床材下面に
もウロコステンレスを使用して、「外から見える部分は全てウロコステンレスにしてほしい」という瓦井氏
の要望に全面的に応えており、まさにどこから見てもビカビカな1台に仕上がった。文秀氏は「仕事道具の
見栄えが良く、気に入る仕上がりになれば仕事もより一層頑張れるというのは私自身もよくわかります。運
搬車両ですが、そういう飾りの部分も要望に応えていきたいですね」と語った。
このように、機能面だけでなく見栄えに至るまでお客さんの要望に全面的に応える柳沼ボデー。そこには
文秀氏の「もし自分がお客さんだったら、どんなところに頼みたいかと想像したとき、とことん要望に応え
てくれるところだったら作ろうと思うのでは、と考えました。そこまで柔軟に対応しないとモノは売れない
と思っています」という思いが根底にある。
生産者へのメッセージ
文秀氏は、「生産者の方が良い牛を作り、良い状態で出荷ができるようなお手伝いができればと思ってい
ます。輸送時のトラブル、お困りごとがありましたら、ぜひ解決のお手伝いをさせてください。まだ家畜運搬
車の製造を始めたばかりですが、農家さんと一緒にこだわりの1台を作っていきたいと思っています」と力
強く語った。
また、家畜運搬車を作るにあたって牛についても現在勉強中で、文秀氏は牛が約30ヵ月またはそれ以上の
年月をかけて出荷されることに感銘を受けており、それまで農家さんが大切に飼育されていた牛を最後の輸
送で台無しにしてはならないという責任感も持たれているように感じた。
柳沼ボデーでは現在4t車を基本に4~8tまでの増t車で製作可能。家畜運搬車(4t)の基本価格は750万円。
また、車両の製作だけでなく、家畜運搬車の修理やカスタムも可能。「床の腐食部分を綺麗にしたい」、
「車体にフックを取り付けたい」などなど、車両に関することであれば一度ご相談されてみてはいかがだろうか。
(庄萌)